桑の葉切り論争

人と人の間には、とてつもなく深いコミュニケーションギャップが存在するものです。

ましてやそれが、男女間のものともなると、話しはなおさら複雑ですね。

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「トマトの切り方、何かリクエストある?」

ある夏の朝、花子はドイツパンのサンドウィッチに挟むトマトについて、軽い気持ちで太郎に訪ねた。

「そうね~、薄桑切りがいいな」 と、太郎はぶっきらぼうに答えた。

「薄桑切り・・・」

花子はそう呟いて、キッチンのまな板から視線を上げた。

そして果たして桑の葉とはどのような形態をしているものか、つたない記憶を懸命にひも解き始めたのだ。

<イチョウ切り>や<松葉切り>なら知っていても、桑の葉の形に野菜を切った事は未だかつて一度もなかった。

近所にはかつて養蚕を営んでいたという地域があるにはあるのだが、今ではもう桑畑などどこにも見る影がない。

桑はいにしえよりカイコの餌として重要な農作物であり、また果樹としても盛んに栽培されて来た。

桑の果実マルベリーは甘酸っぱく美味であり、果実酒やジャムとして珍重されている。

桑の葉をお茶として飲む<桑茶>もあるし、血圧や血糖値を下げるという、その薬効成分は広く認められている。

また古来、中国でも日本でも桑は聖なる木として位置づけられている。

その霊力が中風を防ぐとも伝えられたし、男子の厄よけ神事・祭事にも使われていたらしい。

カイコの好む神聖な植物の葉っぱなのだから、きっと桑の葉切りには何か知られていない秘密の意味が隠されているのだろう。

お祭り料理用などに特別な飾り切りがあって、幸福を呼ぶ願掛けがあったのかも知れない。

それにしても包丁の扱いに<桑の葉切り>があるなんて、花子はこの年になるまで聞いたことがなかった。

世の中ってほんとにまだまだ知らない事だらけなんだなぁ~

短時間の内に花子の心に様々な思いが浮かんでは消え、桑に関するおぼろげなイメージだけが駆け巡って行ったが、結局桑の葉の象徴については分からずじまいだった。

考えあぐねた末、花子は太郎に尋ねてみた。

「桑の葉切りってどういう形なの? ギザギザな奴? 星型かしら?」

「へっ? 桑の葉?」 と、太郎は言った。

「トマトよ。 桑の葉切り。 神聖な形なんでしょ? 家紋風?」

「お前、ばっかでねえの?」

「だってトマトのスライスが・・・」

「ば~か! 薄く輪切りだよ!」

「薄ク・・・ワギリ・・・」

「何かさぁ~、アンタっていっつも人の言う事聞いてないよね」

「薄ク・・・輪ギリ・・・」

「だから人の話しを聞けって何度も言ってるでしょ? 大体いつもねぇ・・・・ガミガミガミ・・・」   

「ふん! なにさ・・・」



人と人との間には、とてつもなく深いコミュニケーションギャップが存在するものです。

ましてやそれが、男女間のものともなると、話しはなおさら複雑ですね。

爽やかな夏の朝のひと時が、突然の疾風の如く冷たい風に変わるのに、たったの数分でOKという事を、あなたはこの寓話から学ぶ事が出来ます。




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by viva1213yumiko | 2012-08-22 18:49 | おとぎ話・こぼれ話 | Comments(0)
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