身分違いの恋というものがあります。
現代の社会ではあまりピンと来ないかも知れないけど、封建制がしっかり根付いてた時代には、そんな身分違いの恋がもたらした悲劇が、たくさん存在していただろうと、お芝居や小説から容易に想像されます。 モーツアルトのオペラ<フィガロの結婚>は、領主様の小作民に対する初夜権をめぐるドタバタ劇をテーマにしているのだから、どこの国でも権力を持つ者はやりたい放題だったみたいです。 バレエ<ジゼル>の舞台背景は、そういった歴史の暗黒面を考えざるを得ない深いテーマが潜んでいます。 貴族の身分を隠し、農夫の扮装で村娘ジゼルの元に通い、言い寄る、お坊っちゃまアルベルト。 純粋といえば純粋、無鉄砲といえば無鉄砲な王子の恋は、秋の収穫祭の踊りを背景に盛り上がりを見せている。 しかし若さっていつの時代でも無分別。 しかもその無分別さが人を深く傷つけていることに気づきさえしないのだから、若殿はいつの時代でもお気楽なものです。 ところが、貴族の身分を森番に暴露された挙げ句、実は正当な貴婦人の婚約者までいたことが、バレバレになってしまうのですね。 素朴な村娘ジゼルは、あまりの衝撃に正気を失い、錯乱してそのまま呆気なく絶命してしまう。 アルベルト王子は打ちのめされてその場を逃げ去るが、夜、罪悪感と傷心の気持ちでジゼルの墓に花束を持ってあらわれるのです。 すると、鬼火のように白くゆらめくものが、夜の森の中をフワフワと漂っていることに気付く。 それは、白く純粋で、背中に小さな羽を持ち、透けるほど軽いドレスに身を包んだ妖精の群れだったのです。 これこそが、森の妖精ウィリなのであります。 男をまだ知らぬまま、嫁入り前に命を落とした乙女は、ウィリという地縛霊に姿を変える。 そして、夜になると自らの墓から抜け出し、夜の森を踊り狂っているらしい。 可憐で儚げなこの妖精は、単体ではさほどパワーはないけど、軍団を作って活動をすると思わぬ大胆な行動に出る。 リーダー格の妖精ミルタの号令が掛かると、このウィリ軍団は一糸乱れぬフォーメーションで踊りだし、女をひどい目に合わせた悪い男を見つけるや踊りの輪に引きずり込み、最後には踊り狂って死ぬように巧妙な罠にかけるのです。 可憐な見かけとは違ってこのウィリ軍団、男に対する怨念が生々しくこもっているのだ。 50ccのミニバイク&お揃いの衣装で軍団を作り、コンビニ前の駐車場で男を張って、リンチしてやろうとこん棒持って待ち構えるレディース軍団といった風情でなのであります。 女にひどい仕打ちをした男たちを、止めようにも止められない踊り地獄の輪の中に放り込み、最後には沼地に突き落として殺してしまうのだから、ウィリって本当に恐ろしい妖精なのです。 夜の森っていうのは、不思議な気配に包まれるんですよねぇ。 特に春から夏、森の生気がムンムン漂うその頃は、柔らかな綿毛に包まれた種子を運ぶ、浮遊する奇妙な物体があちらこちらに見つけられるのですよ。 ホタルのように輝きながら、音もなくふわふわ浮遊する物体を追いかけて小川沿いを行くと、見たこともない様な水辺に誘導され、ふと気づくと靴をぐっしょり濡らしていたりする・・・ 処女の化身が森に入って来た男を一晩中踊り狂わし、殺してしまうというのは、どこかエロチックな響きがありますが、そんな誘惑の意図を感じさせるような森の甘い罠なのです。 なんだかゾクっと来るものがありますよね。 結婚を目前に、成仏出来なかった処女のその意固地さは、女の怖さであるとともに、官能的なエロティシズムになっているのかも知れませんね。 夜の森ってのは、そういう怨念が沸いて出てくる場所でもあります。 人のダークサイトをそっとくすぐるような怖さを秘めていいるので、本当にご用心なのです。 それにしても「女を弄ぶと、因果応報ろくなことはないぞ」という教えに、このバレエは格好の題材ですね。 私の知っている限りでも、一晩中踊り明かし、翌朝目の下にクマを作って「許して下さい」と懇願することになりそうな連中は結構いるじゃないですか! この際だからリストを作ってウィリのリーダー、ミルタに贈っておこうかしら。 ローズマリーの小枝を一振りしただけで、悪い男を刑に処してくれるはずです。 処女の怨念は誠に恐ろしいものがあります。 かつて処女だった女の怨念も含め、殿方は十分にお気をつけ遊ばせ・・・
by viva1213yumiko
| 2013-02-25 13:12
| オペラ・バレエ・映画
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