手練手管

遊女がらみの話しをもうひとつ。

遊女たちは商売のために、男との関係を繋ぎ止める必要がある訳ですが、そのために客あしらいのテクニックを持っていました。

それは、遊女たちが「あんたをこんなに思ってますよ」「私の心の内をお見せしますよ」と、誓いを立てて見せつけた、巧妙な手練手管だったのです。

杉浦日向子さんによると、その方法には次のようなものがあったのだそうです。
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   1. 起請誓紙(きしょうせいし)

   2. 放爪(ほうそう)

   3. 入れ黒子(いれぼくろ)

   4. 貫肉(かんにく)

   5. 指切り

   6. 髪切り


1.の<起請誓紙>とは、誓いの言葉を紙に書き、神社に奉納する事ですね。

「私とあなたは決して切れません。二世を誓った仲でござんす」みたいな事をしたためて、ちょいと指を切り血判を押すのです。

同じ物を三枚書いて、一枚は男に、一枚は自分で、そしてもう一枚は神社に奉納すると言います。

神仏がらみの行為なので滅多な気持ちでやってはならないのですが、なぜか神仏がお許し下さる誓いの人数というのがあって、なんと熊野権現では25人まで<起請誓紙>が通用したんだそうです。 笑っちゃいますよね。

2.の<放爪>は、遊女が自分の爪を剥がして小さな桐の箱に入れ、「ほら、これがあたいの心だよ」と言って客に渡す方法。

お付きのかむろに爪を伸ばさせて、魚の血などを付けて、偽物を渡したりしてたそうですよ。

3.は<入れ黒子> これは<○○様命>と客の名前を二の腕に彫る事です。

けれど実際には彫り物じゃなく、油性の墨で描いておいて、暗い行灯の明かりの下で「ほらっ」って見せるのだそうです。

4.の<貫肉>は小さな小刀を振りかざし、お客の前で自分の太ももをザクッと刺す。

「あんたの事をこんだけ思ってるんだよ」って見せつける訳ですが、芝居用の血糊が仕込まれた小刀を使って演じて見せたとも言われます。

<指切り>とは字の通り、小指の第一関節のところにカミソリを当ててガツンと切り落し、桐の小箱で思う男に送りつける荒技。

<髪切り>とは、女の命である髪を目の前で切ってみせて、誠を誓うパフォーマンスですね。

吉原の中には専門の職人の住んでるエリアがあって、そういったパフォーマンス用の小道具を職人に依頼出来たと言います。

小指も髪も作り物で代用するのです。

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このように全てが嘘、虚構の世界なのですが、これらが顧客に対する出血サービスとなっており、特別パフォーマンスの意味を持っているのです。

だから客はそれを喜んで受け入れなければなりません。

そして遊女たちから<色恋>の仕方を学んで、<粋>な色男を目指したのです。


しかし、実際一番遊女にモテたのは、<粋>なひとでも<通>な人でもなかったと言うから皮肉な話しですよね。

特別どうって事もない、誠実な真人間が、遊女の心を最も捉えたんだそうです。

「遊女の深情け」って奴でしょうか・・・


なので、<通>だ、<粋>だ、と一生懸命努力しても、所詮は無駄な事なんですが、この無駄なところにエネルギーを傾ける馬鹿馬鹿しさこそが、江戸の文化そのものだと言えるんですね。

無駄を面白がるゆとりが、江戸時代の太平を支えていたのだと思います。




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by viva1213yumiko | 2013-06-28 22:20 | おとぎ話・こぼれ話 | Comments(0)
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