パンプス・シューズはここ一番、キチンとした装いを要求される時、頼りになる存在です。 けれど、足の甲の部分がむき出しで引っ掛かりがなく、とても疲れやすいのが問題です。 もともと貴族が宮廷内で履いた靴なので、屋外を歩くために作られていません。 晩餐会や舞踏会の時、足先からエレガントに振る舞う、言わば見せるための靴なので、実用には向かないのです。 だから現代の働く女性がパンプス・シューズで通勤するのは、考えてみるとかなり不自然な行為で、足裏マッサージやリフレクソロジーがこれだけ盛況なのも、パンプス通勤の功罪と言えるのかも知れません。 同じパンプスの中でも極め付きまで甲を見せたデザインを、バレエ・シューズと呼んでいます。 バレエ・シューズとは、バレリーナが踊る時、足先の動きをみせるための靴。 踵や足裏の繊細な動きを、靴を履いたまま表現出来るので、エレガントを足先で表現するバレエ芸術には必携のものです。 そして舞台では極限まで天に近づくため、つま先立ちのトウ・シューズ(ポワント・シューズ)を履くのです。 1㌢でも高く伸び上がり、重力からの解放を目指したバレリーナたちは、この世とあの世を行き来する、美しい妖精や天使と同じような存在だと定義されました。 このトウ・シューズを履いた時、最も美しいとされるのは足の甲の部分がフラミンゴのくちばしのようにアーチを描き湾曲する事。 俗に「甲が出る」といわれるラインです。 一般女性は、<足の指>や<足の裏>を意識する事はあっても、<足の甲>の美しさなんて普段考えもしませんよね。 だけどバレエの世界ではこの<足の甲>がものをいいます。 バレリーナを目指す子供たちは、ストレッチャーで甲を引っ張り痛い思いをしながら、美しいアーチ型の甲を目指します。 それだけバレリーナにとって足の甲は大事なパーツとなっているのです。 和服の似合う人って大体<うなじ美人>ですよね。 水着を着るなら<くびれ美人>かな? セクシーさでは<ブロンド美人> ミステリアスな<白痴美人> 色んな美人がいるけれど、バレエの世界は<甲美人>が求められるのです。 日本人の人気ダンサー上野水香さんは、この<甲美人>の代名詞みたいなバレリーナです。 世界甲美人コンテストなんてものがあったら、グランプリ取れるんじゃないかと思えるほど、惚れ惚れする甲なのです。 もともと手足が長く、日本人離れしたプロポーションの持ち主なのですが、その彼女がポワントでポーズすると、甲は柔らかい湾曲を描き彼女の重力をバランス良く吸収し、美しくしなるフラミンゴ・ラインを描くのです。 寺院のドーム屋根のように、数学的強さと美学的バランスを兼ね備え、観るものに崇高な哲学さえ感じさせる甲だと言えるでしょう。 まるで足の先に情緒が宿っているようです。 舞台人なら手先・指先、もしくは表情で感情表現して、情緒を感じさせる人は多いでしょうね。 だけど、足先に情緒がある人って滅多にいませんよ。 上野さんの甲には奇跡が宿るのです。 美しく繊細かつ強靭な、神の恩寵を垣間見せる、奇跡の甲なのであります。 [神は細部のデティールに宿りたもう] <甲美人>のバレリーナたちを見るたび、言葉にならない何かが万華鏡のようにきらめき出して、結果、私は沈黙せざるを得なくなります。 [世界中のあらゆるものに、あまねく神は偏在する] そんな大いなるインスピレーションに、心奪われてしまうからなのです。
by viva1213yumiko
| 2013-07-05 21:05
| オペラ・バレエ・映画
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