大人の観賞に耐えうる<しみる>映画で、さすがに良く出来ておりました。 時代考証がまた秀逸なんですよね。 明治・大正・昭和と、急速に近代化する日本を丁寧に描写していて、映画の中で時代の移り変わりが良く出ています。 観客は皆その時代に生きてたわけでもないのに、その風俗その空気感に胸がキュンと高なり、切なくなってしまうのです。 関東大震災のシーンも迫力がありました。 まるで3.11を追体験するかのような臨場感で、ちょっと緊張してしまいます。 関東大震災から第二次世界大戦に向かって、どんどん世の中が暗く、重苦しくなって行く昭和初期。 作者がこの現代にだぶらせて作品を創作しているであろう事が、容易に想像されます。 そして主人公二郎の恋。 高原のサナトリウムから抜け出して結ばれる二人。 そしてその別れ・・・ 純粋無垢な王道恋愛100%で、またまた胸キュンキュンです。 全編宮崎駿の好きな、飛行機・建物・風景・乗り物・嗜好品に溢れていて、ジブリファンでなくても思わずニンマリしてしまいます。 この映画の魅力は色々な角度から語ることが出来るのですが、個人的に最も印象深かったのは<シベリア>でした。 欧米列強に追いつこうと急速な近代化を進める日本。 その歪みが人々に波及する様を、物語は<シベリア>ケーキで表現しています。 親の帰りを電柱の下で待つ幼い兄弟姉妹。 ひもじい彼らに主人公はお菓子を施すが、拒否されるというあのシーンです。 羊羹をカステラでサンドイッチにした、<シベリア>という名のお菓子。 あれ、懐かしいですねぇ~ 子供の頃、近所のパン屋さんに売ってたのを思い出してしまいましたよ。 なんでも<シベリア>は、大正から昭和の頃の大ヒット菓子として有名で、私の子供の頃にもまだその名残が残っていたのか、場末のパン屋さんには必ずやひっそりと静かに存在してたのです。 とはいえ、もう既に子供たちにはショートケーキやシュークリームが主流で、羊羹を挟んだカステラなんてどう転んでも地味すぎます。 あくまでも<年寄り好みのお菓子>というポジションに甘んじてました。 夕方の商店街、パン屋のショウケースに売れ残り、乾燥しかけた<シベリア>だけが行儀良く並んでいた光景が思い出されます。 昭和初期には子供たちの食べたい物ナンバーワンだったという<シベリア>ケーキですが、平成の今では絶滅の危機に瀕する幻のレトロ菓子なのであります。 シベリアの永久凍土の地層を思い起こさせる、この<シベリア>ケーキ。 それが映画のヒットと共に今、<シベリア>復刻のムーブメントが起こりつつあるみたいなんです。 ネットでは「ここでシベリアを買える!」みたいなサイトがあって、古くて小さな昭和レトロのパン屋さん情報が飛び交っているし、また某大手コンビニでも売り出しを始めたとか・・・ お菓子の世界の絶滅危惧種も、一発逆転、起死回生のチャンスが訪れたようなのです。 [生きねば] これは映画<風立ちぬ>のコピーです。 「たとえどんな時代でも力を尽くして生きることが必要なのです」という監督の思いが強くこもっていますよね。 まるでその思いに応えるかのように今、<シベリア>は甦って参りました。 皆さんも<シベリア>に負けぬよう、この時代、力を尽くして生きましょうぞ! 追伸 近隣のパン屋3件、スーパー5件、コンビニ3件を回り、やっと発見した<三角シベリア>がこれ。 残念ながら食品メーカーの大量生産品で、イメージとはかなり違っていた。 探せば探すほど徐々に思いが募り、<シベリア>を美化しすぎた私。 結局ただ甘いだけで、美味しいのか美味しくないのか全く分からなかった事が残念である。
by viva1213yumiko
| 2013-08-11 22:53
| オペラ・バレエ・映画
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