男と運命的な出逢いをし、出逢った事によって男の運命をまったく変えてしまうような数奇な存在の女。 男を快楽の園へと導き、そして手放し破滅させる魔性の女の事ですね。 雰囲気がどこか謎めいていて、男がまだ知らぬ未知の世界へと誘ってくれるようなそんな存在。 憧れと怖れの入り交じる、感情の深いレベルから手招きされるような、抗しがたい魂の衝動。 ファム・ファタルとは男の運命を決める、ある意味不吉な女でもあるのです。 この、男にとって<極上の悪夢>のヒロイン像は、多くの芸術家たちにインスピレーションを授けたようで、オペラ・バレエ・芝居・小説でたくさん主題として扱われています。 特に19世紀末の欧州では、世紀末芸術家たちが作成した妖婦のイメージが発信源となり、広く一般に行き渡り流行したといいます。 [長くたらした髪・ミツロウのような肌・血のように赤い唇・とろんとした瞳] こんな感じのファッションや化粧法が大流行したんだそうです。 これらの世紀末ファッションは、既にこの時点で完成の域に達していたのか、秘密めいたデカダンな意匠として現代に至るまで通用しています。 週末の原宿辺りでは、今日でも容易く観察する事が出来ます。 <カルメン> <サロメ> <マノン> オペラでもバレエでも人気演目の中には、ファム・ファタルが繰り返し登場して来ます。 しかし物語を深読みしても、どうしても理解出来ない事があるんですよね。 それは、「なぜ男は悪女に惹かれるのか?」という点なのです。 本日はそこら辺に注目してみたいと思います。 [ファム・ファタル : 破滅すると分かっていながら、男が恋にのめり込んで行かざるを得ないような魔性の魅力を持った女] ラルース大辞典 一説によると、すべての少年は大人に成長するある段階で、一度は悪女タイプのファム・ファタルに惹かれるのだそうです。 破滅しそうなほど命取りの悪女のイメージ。 それが男性の心の成長に、なぜ必要だと言うのでしょうか? 例えば<カルメン>です。 聖職者志望だったドン・ホセを、誘惑して骨抜きにし、痴話げんかを繰り返し、盗みを働かせ、前科者に貶めて、結局殺人者にまで堕落させる。 もし自分がドン・ホセの身内だったなら、あんな性悪女とは一刻も早く切れさせたいですよね。 考えてみれば生に対し空虚感・倦怠感を持ち、享楽的傾向のカルメンと、素朴な田舎者ドン・ホセとでは、最初から接点のない組み合わせじゃありませんか? 全然釣り合いが取れてませんよね。 しかし運命とは皮肉なものです。 運命が送り届けて来たのは、ドン・ホセを不吉に振り回す魔性の女。 彼が最も怖れ、そして憧れてもいる悪のイメージを、具現化する女性だったんですから・・・ カルメンの一体どこに、ドン・ホセは惹かれたのでしょうか? ユング心理学では、男の心にあるすべての女性的傾向が人格化されたものをアニマと呼んで、男性の心の成長に多大な影響を与えていると定義しています。 言うなればアニマとは、男の中の隠された女性性の事なんですよね。 通常なら理知的・論理的な左脳思考で物事を解釈する男性の心に、渾然としたムードのようなものがムクムク涌き上る時があるのだそうです。 その不可解な情動こそが、非合理的なものへの感受性を研ぎすまし、直感力を育み、愛する能力を目覚めさせると言われています。 純朴で母親思いのドン・ホセの心は、実は表向きとは違い、束縛を解き放ち自由に生きたいという欲求ではち切れんばかりに膨らんでいたのかも知れません。 ドン・ホセのアニマは、潔い生き方をするカルメンというアウトサイダーに簡単に投影されてしまいました。 本当は彼自身が何より潔く生きたがっているのだが、家庭の事情もありそう簡単には行かず、自分を抑えている。 だからこそ望んでも果たせそうにない自分の夢を、まるで代弁して生きてるようなカルメンに、憧れ魅了され執着してしまうのです。 実は誰の心の中にも、束縛を説き放ちたいという自由への欲求があります。 だから「自由か、死か!」というアウトサイダーに憧れる気持ちがある。 誰の心にも、カルメンのように<我を忘れるくらい熱く燃えてみたい欲求>が眠っているのです。 その欲求に無自覚なまま異性と運命的な出会いをすると、とてつもなく激しく、身も心も焼き尽すほど危険な恋愛へと踏み込む可能性が潜んでいます。 そして恋という名の天国と地獄を、のぞき見る幸福を味わう羽目に陥るのです。 恋とはやはり魔物です。 うっかり近ずいて大怪我しないよう、ご用心ご用心。 追伸 あなたがカルメンを目指していても、ファム・ファタルとはあくまで周りの人間が評価する言葉。 「私ってファム・ファタルなの」と自分で名乗ったらそれで一巻の終わりになるので、くれぐれも気をつけて誘惑してみましょう。
by viva1213yumiko
| 2013-09-24 22:16
| オペラ・バレエ・映画
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