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蝶々夫人

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明治から昭和までの人物で、最も世界に名の知れた日本人女性とは、一体誰でしょうか?

樋口一葉? 平塚らいてう? 美智子皇后? オノ・ヨーコ? 黒柳徹子?

う〜ん、ちょっと違うかなぁ〜

世界で最も有名な日本人女性は・・・

それは多分、誰もが知ってる、あの<蝶々夫人>なのかも知れません。


<蝶々夫人>は19世紀末の長崎が舞台のお話しです。

ちょうど日清戦争の頃のお話ですね。

米海軍士官ピンカートンは女衒のゴローの紹介で、現地妻として蝶々さんを身請けする。

長崎領事のシャープレスは花嫁が真剣なのを見て、軽い気持ちで結婚式を上げるピンカートンを諌めるが、本人は意に介さない。

蝶々さんは親戚とも縁を切り、キリスト教に改宗してまでピンカートンの愛を信じている。

時は過ぎ、ピンカートンが帰国してから早3年。

いつまでも待ち続ける蝶々さんの姿に、シャープレスも女中のスズキも心を痛めている。

その時、米国軍艦の砲声が鳴り、蝶々さんはピンカートンが自分のもとへ戻って来たと喜ぶ。

しかしピンカートンはアメリカで結婚して、夫人と一緒に来日していたのです。

それを知った蝶々さんは「恥に生きるより名誉に死ぬ」と決心し、子どもを夫人に託して自らの短剣で自刃する。


長崎を舞台に繰り広げられる現地妻の悲劇で、身勝手な米国軍人ピンカートンへの憎しみと、健気な日本人女性への同情とが交錯し、日本人にとって愛憎半ばする作品です。

大体<蝶々夫人>なんてタイトルからして、ヒロインは30代位の上品な大人の奥様をイメージしますよね。

しかし、彼女が自ら命を断ったのは18才という若さなんですよ〜

そして身請けされたのは、なんとたったの15才!

時代風俗が違うとはいえ、これでは幼な妻を通り越し、児童買春というか、もう犯罪のレベルですよね。

しかし哀しいいかな、蝶々さんと同じような立場の女性は今もたくさんいるし、ピンカートンと同じように身勝手な男性も世界にはたくさんいる。

だからこれは古今東西どこにでもあり、今もあり続けるお話しです。

<蝶々夫人>は単に日本を舞台にした異国趣味のオペラなのではなく、普遍的テーマのある社会派ドラマでもあった訳なんですね。


実際、蝶々夫人には実在のモデルがいたらしいですよ。

「ロシアの海軍士官に捨てられた日本人女性がいた」と、日本滞在中に噂を耳にした姉の話しから着想を得て、小説家が物語を書き上げたと言われてます。

プッチーニがそれをオペラ化したのが1904年。

ミラノスカラ座での初演以来、今日に至るまで世界中で上演され、優しく健気で芯の強い日本人女性のイメージを定着させてしまったんじゃないでしょうか。

今日でも世界で未だに日本人女性の評価が高いと言われるのは、このオペラの影響もあると思います。


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   ある晴れた日

   海の向こうに一筋の煙が登って船が見える

   港に入って来ると礼砲がとどろく

   私は丘の端で待っているの

   そうすると人々の間から

   ひとりの人が私の方にやって来て

   私のことを「蝶々さん」と呼ぶの

   でも私は隠れるの

   そうするとあの人は私のことを

   「美しい桜の香りのような奥さん」と呼ぶわ

   これはきっと実現するわ

   私は信じているの




ピンカートンの帰りを待ちわびる蝶々夫人が歌う、人気アリアです。

芸者であった蝶々夫人は、自分がピンカートンにとって一時的な現地妻である事をどこかで理解しながらも、愛する人の自分への愛情を信じ続けます。

あまりの一途さに、彼女の空想シーンのはずが現実の事のように感じられ、またそこが切なく物悲しいですね。

というか、この段階の蝶々さん、かなり妄想進んじゃってます。

いわゆる精神的危機の状態なんじゃないかしらね?

現代だったらそのまま確実にストーカー行為へと進むんじゃないでしょうか。


<一途すぎる恋>

それは美しいけど厄介な存在です。

一途な恋はそれだけヤケドしやすいし、痛みと傷跡だけを残し、幻のように過ぎ去って行きます。

古今東西、哀しいかなそういうものなのです。

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ところで蝶々さんの死後、ピンカートン夫妻に引き取られアメリカで成長した息子は、その後どうなったのか気になりませんか?

原作者ジョン・ルーサー・ロング氏は、未発表の<蝶々夫人>の続編を残して亡くなったと言います。

その続編によると、蝶々さんの自殺は未遂に終わっていて、その後は旅館の女将をしながら細々と生き延びるらしいのです。

ピンカートンとケート夫妻に引き取られた息子、Jr.バタフライは20年後に日本に戻って来て、実の母とは知らずに蝶々さんと出逢うのだが、しかし・・・

と、そういう物語になっているのです。(興味のある人は調べてみて下さい)

三枝成彰氏の新作オペラ<Jr・バタフライ>では、舞台は第二次世界大戦の時代に変わっていて、記者となって日本に帰って来たJr.バタフライが日本人女性と恋に落ちるのだが、戦争によってその仲を引き裂かれ、彼女は長崎で被爆して死ぬという、これまた救いようのない悲劇が待ち構えているのです。


わずか2才半の時、母親と劇的な分かれ方をし、義母によって育てられた混血児Jr.バタフライ。

彼が母親に対する大きな葛藤を抱えて、異国で孤独に成長したであろう事は容易に想像されます。

複雑な母親コンプレックスを乗り越えない限り、彼の魂の救済はあり得ないのではないでしょうか。

ちょっと想像してみただけでも、彼の恋愛や結婚には大きな困難が待ち受けていると思わないではいられません。

<Jr.バタフライ物語>もさらに波乱を呼んで、結局は<バタフライ家の悲劇>という大河小説へと発展するのかも知れませんね。


ドラマに登場する人物の、その後たどった人生を想像してみるというのも、オペラの楽しみ方のひとつと言えるでしょう。




by viva1213yumiko | 2014-02-21 17:16 | オペラ・バレエ・映画 | Comments(0)
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