1968年制作、今村昌平監督の<神々の深き欲望> この映画をまだ観たことがないのなら、是非一度観ることをお勧めしたいです。 ただしこの映画を観るには相当のエネルギーが必要です。 それなりの覚悟を決めて観るようにして下さいね。 精神状態が不安定な時や、病中・病後もお勧め出来ないので、その点も十分にご承知おき頂きたい。 離島のシャーマニズムと、兄妹の近親相姦をテーマにしたこの作品。 何しろオドロオドロしいんです。 タブーを破って村八分にされてる家族と、神話の伝統をそのまま受け継いで生活してる島民たち。 そこに水質調査のため都会から測量技師がやって来て、島に近代化の波が起こるかと思われる。 しかし、むしろ技師は不思議と村社会の因習の中に呑み込まれて行く。 近親相姦で村八分の兄と妹は、船で逃避行を試みるが、結局追っ手の島民たちに殺されてしまう。 そして島には、またひとつ伝説だけが残される。 この映画は、島の古い伝承を直接オジイ・オバアから聞くような、超ド級のプリミティブ・ムービーです。 現代人の理屈や論理など一切通用しない<根源的なエネルギー>が全編を覆っていて、何だか息苦しいくらいです。 原始的で、土俗的で、混沌としていて、それでいて<何か決定的なもの>がそこには潜んでるようにも思われて・・・ ようするに、頭の中がグッチャグチャになっちゃうんです。 それもそのはずです。 現代文明から隔絶したこの島は、シャーマニスティックな因習と神話とに支配されたまま。 でもその雰囲気は、人類全員が共通に持つ、どこか懐かしい記憶に近いものがあるんですね。 映画を観て思考停止になっちゃうのは、細胞だけが知りうる何か<根深い力>が目覚めるような、そんな感覚になるからなのでしょう。 それは、粗野な野生の暴力的エネルギーでもあります。 だからね。 ほら、言った通りに・・・ 必ず覚悟を決めて観て下さいよね。 近親者同士が結ばれて、全く新たなものを創造する。 神話では近親相姦は極めて神聖な扱いをされてます。 神話や伝説の中には、この類いの兄妹婚の話しはたくさん出て来るんですねぇ。 エジプト神話ではオシリスとイシスの兄妹が、近親相姦によってホルスをもうけた。 ゲルマン神話には双子の兄妹神フレイとフレイア。 ギリシア神話ではゼウスとヘラは姉弟の関係。 古事記では、イザナギとイザナミの兄妹神が<国産み・神産み>を行ったとあります。 しかも不具の子ヒルコを産んで海に流したとまで記されている。 沖縄や中国、東南アジアのエリアには「殆どの人が死に絶えるような大洪水の後に、生き残った兄妹が子供を作り、そこから人類が再生していく」といったタイプの<洪水型兄妹始祖神話>が広く伝承されてるんだそうですよ。 こうして改めて見直すと、兄妹婚は神話の中でも重大な役割がありますね。 「とてつもなくクリエイティブなものを生み出す」という、そんな<霊的意義>を表現しているように思えてなりません。 事実古代の王家では、近親婚で濃い血を受け継ぐと呪力が高まると思われていたようです。 近親婚の法律的な解釈は地域によってまちまちですが、倫理的にはどこの世界でも殆どタブー視されてます。 しかし霊的・神話的には<神聖な兄と妹カップルの神様>が活躍する。 だからなのでしょう、文学作品やフィクションの世界でも相思相愛の兄妹は甘美なもの、と扱われやすい。 「妹、萌え〜♡」って、なっちゃってます。 人間の深層心理って実に不思議なものですね。 それはなぜでしょう? なぜ相思相愛の兄妹には、どこか詩的な響きがあるのでしょうか? それはね・・・ 同族間の愛っていうのは、無意識に相手の中に自己愛を注入しちゃうからなんだそうですよ。 もちろんこれは皆、無意識のレベルで起こる心の働きです。 でもそこには<投影された自己愛>、つまりある種のナルシシズムみたいなものが存在している。 それから人間の根源的な欲望の中に「自分の生まれる前まで遡って自分のルーツを肌で感じたい」という衝動があり、それが近親者への愛に変わるって、そんな説も聞いた事あります。 普通の恋愛でも「初めて逢った時からどこか懐かしい感じがした」と、相手をそう感じる人が多いですよね。 それは魂のルーツを肌で味わう感覚を、直感で知覚するからなんじゃないでしょうか? 実際多くの男女が似たような育ち方をし、似たような趣味を持つ人と結婚する傾向にある。 遺伝的に自分と全くかけ離れたタイプより、多少類似性がある個体を好むものなのです。 血縁関係とは切っても切れない永遠の関係です。 だからそこに<永遠の恋人>の夢を投影しちゃうのです。 それが近親者への愛へと変換されやすい。 人間の感性の中には最初から「自分の出自を聖化したい」という願望があるんじゃないか、と思わないではいられません。 人の心って脆く危うく不可解で、一筋縄ではいかないですね〜 日本でも明治時代の頃までは「男女の双子は、前世で一緒になれなかった心中者の生まれ変わりだ」と、忌み嫌われることが多かったそうです。 不憫だということで離ればなれに育てられ、大人になってそっと結婚させた、なんてケースも本当にあったと言う。(驚) しかし私だって、片割れの自分がもう一人存在すると知ったら、きっと狂気じみた想いで探そうとするに違いありません。 最も純粋で悲劇性を帯びたもの、それが相思相愛の兄妹関係に現われるんでしょうね。 追伸: 10代の頃は兄という存在に甘美な想いを抱いていたので、兄を持つ友人たちが羨ましかった。 しかし兄を持つ大概の友人は「ダサい!・臭い!・ウザい!」と兄貴連中をボロクソに言うばかり。 禁断の兄妹愛は、幻想の花園に咲くからこそ妖しく美しいのかも知れませんね。
by viva1213yumiko
| 2016-05-23 23:36
| オペラ・バレエ・映画
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