人と人との間には、とてつもなく深いコミュニケーションギャップが存在するものです。
ましてやそれが男女間のものともなると、話しはなおさら複雑です。 「いやー 色づいたもんだなぁ」 窓越しに広がる圧倒的な紅葉を見上げ、太郎は誇らしげに呟いた。 昨日の雨で空気はしっとり潤っており、ひと雨ごとに深みを増して来たこの秋の成熟度も、ついに頂点に達した事を告げていた。 「今日は天気は保つみたいだけど 風が強そうだね」 風が吹くたび一斉にざわめく木立の群れから、まるで戦勝パレードの紙吹雪ように数え切れない程落ち葉が舞い始めたのだ。 あるものは垂直落下で、あるものはふんわりと弧を描きながら、またあるものは高速回転のピルエットで狂ったように乱舞して・・・ みな思い思いのスタイルで、命の新たなステージへと飛び出して行く。 そして地面に舞い降りた枯れ葉は、湿り気を帯びて艶を放ち、高級な段通絨毯のような見事な文様を織り上げて行くのだった。 「濡れ落ち葉 奇麗だね」と、太郎は言った。 「そうね 奇麗ね」と、花子は答えた。 「やっぱりこの間のセーター買えば良かったかなぁ・・・」 先日、クラフトフェアで買いそこなった美しい枯れ葉色の手編みセーターの事を太郎は思い出していた。 「そうねぇ あれは貴方に似合ったかもねぇ」 猫にせがまれるまま、3つのボウルに均等に餌を分けつつ、花子は半分うわの空で答えていた。 猫の鳴き声が止まり、いつも通りの旺盛な食欲を見届けると安心して、花子は何気なく言った。 「けどあのセーター着たらさ あなたも濡れ落ち葉よ」 「・・・」 一瞬のあいだ奇妙な沈黙が起こり、枯れ葉の落ちる音だけが囁くように静かに響いた。 「・・・う〜む・・・」 「ん? なんか変なこと言った?」 「君は人のマインドというものがいかに否定性を生み出すか 全然分かってないようだね」 「へ? マインド?」 「脳科学でも証明されてるんだよ いつでも否定的解釈をしたがるのが脳の特徴だって・・・」 「は? 濡れ落ち葉は否定的な言葉だった?」 「言葉に良い悪いはない 意味を解釈するのはあくまで人のマインドなんだ」 「つまり貴方にとって濡れ落ち葉はどこかネガティブなのね?」 「分かんないかなぁ だから言葉に気をつけなさいっていつも言ってるでしょ」 「だってさっき貴方・・・濡れ落ち葉 奇麗だって・・・」 「はん! そういうのを言い訳ばかりの屁理屈上手って言うんだよ」 「ふん! どっちが屁理屈よ!」 人と人との間には、とてつもなく深いコミュニケーションギャップが存在するものです。 ましてやそれが男女間のものともなると、話しはなおさら複雑です。 人のマインドがどれほど否定的解釈を語って聞かそうと、やがて秋になれば葉っぱは皆濡れて落ちるのだという事を、あなたはこの寓話から学ぶ事が出来ます。 #
by viva1213yumiko
| 2012-11-09 11:05
| おとぎ話・こぼれ話
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